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日々の泡沫

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毛色が違う話  

少々、体調不良中なので書ける記事がないのですが、
某親方ことsizuru氏のRO2次小説にうちの娘が出ているので、それにあわせてサイドストーリーをかいてまして。

一応こんな感じで―っていうことで、夜勤中の親方に送りつけた(しかもついったーのDMで)話を掲載。
興味のない人用に、追記で。
続きは今書いてる最中なので、またそのうち。

sizuru氏のブログ『Mac de Ragna』 はこちらから → 

かなり楽しいので、一読下さいまし。



科戸-桜-

これがグラリスNo.6【祇王】の生まれたときに享けた号である。
対となる「科戸-葵-」も、時を同じくしてこの世に生を享けた。

彼女が属する一族において、女児を授かることは当然で、男児を授かることは僥倖としていた。
謡だけではなく、舞を覚え伝え支えていく者たちや、姫巫女の舞台における着付けや細かい装飾の一かけらに至るまで、文字に残さず口伝めいた方式で教え込まれていくのは男衆の生き様の表れだった。
ただ、基礎を叩きこまれるのは≪外≫と決まっており、外を知り、人と触れ合い、流行や世間の情勢を肌で感じたまま、時折帰郷を許されたという名目の、生きた情報を報告させる。
≪外≫で出会い、恋をして誓いをかわした間に生まれた子供については、必ず一度は連れて帰らねばならぬ掟はあった。
表面上は閉鎖的ではない。
里の資金源となる≪娘≫たちの育成に並々ならぬ金がかかるのは事実だが、需要が切れない以上、里としては存続する。
存続するためには血を継いでいく子供が必要となる。
父親が里のもので、母親が外部のものであったなら、その生まれた子供が男児なら一族の加護からは外され如何様に生きて行ってもかまわない。ただ、女児が生まれた場合は一族が預かり、3つの可愛い盛りまで切り離された。
母親が里のものの場合、一族の女衆は極めて特殊な技を身に着けるため、生れ落ちてから5つになるまでの間、世話係に男衆は一切含まれない。
兄弟であっても、生れ落ちた瞬間から一目も会うことは許されない。
それは好き嫌いを無意識化で選び、客を選んでいたのでは一族は立ち行かなくなってしまうための保険のようなもの。
4~5歳にもなれば、母親や祖母の骨格や体型から成長した時の予想図が見て取れる。それを利用して就職する≪先≫を決めるのが一族の長の務めだった。
ただ春を鬻ぐだけのふらふらした遊び女ならば一族には不要。
連綿と続く旧い掟を守ることは、遠い昔≪王≫と呼ばれたものとの約束だったという伝説しか残ってはいない。本当は強制力などないのだ。ただ、この一族の初めに恋をしていた娘が、男の身を護るために身につけた技をひそやかに守っているだけのこと。
だから、閨の中でのあえかな声でかわす世の情報をあつめ、一番無防備になるその瞬間に屠りさる技を身に着けるには、生まれ持った好みは仕方ないとしても、暗殺者たちのような認可された手練れとは違う闇の部分を請け負うには、後天的な要素である好き嫌いを幼いうちから身体に刷り込むことを禁忌としただけである。

女衆の妊娠に関して、一族はおおらかであった。
もとより育ちにくい特性と、過酷な仕事による短命も、授かった喜びが満ちる前に生命が潰えてしまうこともあったが、そのときだけ神に仕える巫女からヒトであることを思い出すように、里に帰ってきては子を産んだ。
肌の色、髪の色、瞳の色、何もとらわれない育てのエキスパートの女衆はすべての娘の姿を眺めながら「きれいな花が咲いている」と喜び笑顔を見せた。

一族の娘たちの父親は一族のものか、他部族のものか、それは身籠った母親しか知ることはなく、また、その父親に再び見えるか、共に暮らすかも母親の一存で決められた。

祇王たちの母親は目立つような容貌でも、踊りが上手いわけでも、歌が特にうまいわけでもなく、いつまでも童女のような姿のままの野山で神に小鳥のような舞を捧げる巫女だった。
それよりも、言葉を言葉として認識できず、会話が半分以上成り立ってはいない神にささげられた娘だからこその巫女。
生え変わるはずの歯もそのまま、子を成すことができる証の初潮の訪れもなく、巫女然としているといえばそうなのだが、王都との交流に必須な「占い師」になっても伝える言葉も持たないとされ、祈りを負う巫女の位をえた。

ある日の夜、両の足を汚し、頬と衣を草の汁で汚して帰宅した彼女が帰るなり、とてもしっかりとした口調で「身籠りました」と、長に告げた。
長は息を飲み、ただ一言「そうか」と応えただけだったという。
一夜孕みは神の特権である。
巫女が身籠る相手は「男神」でならねばならぬという里の掟を長は遵守し周知した。
喋ることさえあやふやだった娘が一言伝えた言葉は、二度と口にされることはなかったが、実のところとして、里に属する男衆が手をかけるとも思えないし、なにより誰も知らないうちに連れ去られたとして≪外≫の強い力を持つ者の仕業であると結論付けた。
力の強い神や悪魔を好んで倒すものがいるのだ。そのついでに花を手折ったに過ぎないだろうが、強い血が入ることは一族にとって益でしかない。だから神に愛でられた。
この治外法権の小さな部族には攻城戦の影響をうける気がない。どこの部族だろうが、どこの王だろうが、神だろうが、魔王だろうが、孕ませる雄であったのと、巫女筋である本人が神託のように告げた、ただそれだけのことなのだった。

視ようと思えば視ることは叶う。
享けた生命の欠片は3つあった。

身籠ったことを期に傍についた世話係が握りしめられた形で閉じられた娘の左こぶしに気が付いた。指に違和を持ってはいないはずだった。
ケガでもしているのだろうかと手当をしようとしても子供のように首を振って嫌がる。
異物でも入っていては…と、心配する者たちがいると辛抱強く説いてみたが、いやいやというばかり。興奮させてはいけないからとそのままにすることとした。
ぴたりと何かを包み込むように閉じられた指は、まるで花のつぼみのようだった。
毒などの危険は感じられず、なにより本人が宝物を隠すしぐさをしたため、万が一に際してのそれ相応の処置が施され、安静の日々が申し付けられた。

ゆるゆると大きくなる胎。
育てられていた娘の顔も次第に母のそれになっていく。
なにやら小鳥がさえずるようにつぶやいてはころころと笑う。
周囲はただ優しく、新しい生命が生まれ出ることを見守り祈っていた。
稀に女の多胎児を授かることがあり、その時にのみ神の名を享けて育てることは決まっていた。
医療がいくら進んでも、生命に関することは人間の領域ではない。
故に、稀に多胎児を授かることがあったその時には神の名を享けて育てていた。

周囲もはじめは多胎であったことに気付いたものはそう多くはなかった。どの神に祈るか占いながらも、そぉっと何も言わないで見守るだけだったはずが、胎の子が女児であると解った瞬間、娘の巫女の位は上がった。
ひたすら無事で生まれるようにとの寿ぎの祝詞を謡い廻られ、寵愛されていく雰囲気の中、次第に神格化される【娘】達に小さな母は慄いていた。

3つあったはずの生命の欠片は、2つになっていた。
流れた形跡もなかったが、狭い胎のなかで自然淘汰されたのであろうと、薬師たちは結論付けた。

産み月が来るまではまだ日はあるが、一人では心細いし大変だからと乳母となる大任に立候補したと幼馴染の娘が彼女を抱きしめ、怖くないからねと傍につくことになった。
大丈夫だから、怖くないからと震える手をさすりなだめ、きっと可愛い子が生まれるんだろうねぇ、いいなぁ、私も早くほしいなぁ…と憧れ交じりの優しい瞳で話しかけた。
言葉をほとんど喋らない彼女が話しかけようと口を開くと、喋るのが億劫なら謡いでもいいよと囁いた。とりあえず子守唄とか練習しておかなきゃあ、そうだ、そのためには体力つけなくちゃね、と、食が細くなってしまった母となる彼女に滋養となるものを取りに立ったそのわずかに目を離したその時、彼女もつられて立ち上がろうとしたのか、床の敷布に躓き、何かに引き倒されるようにして転んだ。
絞り出すような、呻くようなくぐもった叫び声と、何かに向かって伸ばされる右手。
圧迫がかかった胎は異物を一気に外に吐き出すように動き始める。
本来なら開く骨盤と産道がゆるゆると開く期を待つよう身体に促し治まるように処置するのだが、月は満ちずともこの機を逃しはしない、待てはしないと、出せるものから吐き出させてしまえと、彼女の身体は血と羊水を外へ出した。

産屋の準備も、産土神への奉納や祈りも早く早くとバタバタ足音だけが響く。
痛みを抑えるための歌。最低限の血止めの祈り。開腹のための準備。新しい生命の受け入れ支度に白い布があちこちで舞う。
唇や舌を噛み切らぬようにと彼女に噛まされた布が圧迫して呼吸困難にならぬようにとの配慮も忘れずにはいたが、痛みを和らげる処置の最中、突然の恐慌をおこし、彼女は気を失った。

女児2人。仮死で世に這い出た。
神の名を享けるにふさわしいと、取り上げた産婆は額に膨大な汗を涙のように流しながら笑った。
聖職の呪をうけ、ふたりとも息を吹き返し、気道に詰まった羊水を吐き出して、初めてこの世の≪気≫を小さな肺に吸い込んで声をあげた。

産屋の外で聞こえた歓喜の声は大きく、幸せな瞬間が訪れた、と皆思っていた。

その横で処置をされ、産褥の傷痕もきれいにされた母親となった娘は、どこか空ろな目を開け、透き通るような笑顔で皆に一礼をし、娘たちの額に口づけを落としてはなれた。
金縛りにあったかのように、誰も動くことができなかった。
ふらりと糸で操られるように立ち上がり、何かに絡め取られたように動けずにいた腕たちの間をツバメのようにすり抜け、治療を受けたとはいえ、先ほどまで苦しみに気を失っていたとは思えぬ足で森へ疾走り駆けていき、ぴちぴちぴぃぃと、小鳥が鳴くような声をあげて微笑い、くるりくるりと世界の重力から解き放たれていた。
しばし舞ってから、ぱたりと地に倒れ、そのまま左手を大切に抱きしめ、
―――…幼子が眠るように息絶えた。

最期まで、誰が父親なのか誰にも告げぬままだった。

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